すごい!知られざる水難救助犬の世界

もうすぐ水難事故が増える時期に入ってきますね。
例えば過去10年間(2011年~2020年)の統計では、死者・行方不明者の平均は752人(子どもは41人)、負傷者数の平均は294人(子どもは52人)というデータがあります。
毎年海や川、湖で命を落とす人がいる一方で、水難事故で命を落としかけていた人を救っているワンちゃんがいることを忘れていたりしませんか?
そう、「水難救助犬」です!
水の事故は水難救助犬が、災害などでは災害対応の訓練がされたワンちゃんが、警察犬や盲導犬以外にも私たち人間のために働いていてくれるワンちゃんがいるのです。
今回は、そんなレスキュー犬の中で水難事故に特化した「水難救助犬」について焦点を当ててみました。
知られざる水難救助犬の世界を一緒に覗いてみましょう!

水難救助犬ってどんなことをしているワンちゃん?

水難救助犬の実態について知っている方は、あまりいらっしゃらないかもしれませんね。
そんなワンちゃんがいる、というのは頭の片隅で知ってはいるけれど、それだけで終わっていたりしませんか。

水難救助犬は、海や川、湖などでおぼれてしまっている人を助けてくれるワンちゃんです。
おぼれている人に向かってロープを持って行ってくれたり、救命胴衣を渡してくれたりするたのもしい子なんですよ!

また、溺れてパニックになっている人の背後から洋服にかみつき運んでくれたり、意識不明になっている人を探してくれるなど、なかなかのたのもしさを備えているワンちゃんなんです。

溺れている人に1匹の水難救助犬が向かってレスキューしてくれると思ってしまいがちですが、実は水難救助の際、ワンちゃんは2頭でレスキューに向かってくれるんです。
2頭のチームワークで、溺れて息ができない人を自分が潜って下から押し上げてくれたり、2頭で協力して溺れた人を咥えて引張ってくれたりします。
本当に賢い子がいるんです。

どんな犬種が水難救助犬になるの?

ワンちゃんはみんな泳ぎが得意とはいえ、水難救助犬に向いているワンちゃんの犬種は昔からニューファンドランド犬と決まっているようです。
そう、昔でいうとナポレオンを救助したのも、ニューファンドランド犬という話もあるのだとか。
なぜニューファンドランド犬なのかといえば、まずは水かきがある犬種だからということ。
また、カナダのニューファンドランド島で漁師たちのお供をして海に出て、溺れた人がいれば助けていたなんていう背景があるそうです。

温厚でおおらかな性格なので攻撃性が強いタイプではありません。
とはいえ、飼い主が危険な状況になると、必死に家族を助ける子でもあるそうです!

じゃあ、ニューファンドランド以外は水難救助犬になれないのかといえば、そんなことはなく、アメリカなど国土の大きい海外では、救助が駆け付けるまで溺れている人が待てないので、なんと湖や川、沼、海の近所に住んでいる普通のワンちゃんたちが訓練を受けて水難救助に向かうなんてこともあるのだそう!

私たちのイメージでは、水難救助犬は救急要請がきて出動するイメージではないですか?
実は地元のワンちゃんがいつでも出動できるようになっていたりするのですね。
そう、どの犬種のワンちゃんも素晴らしいポテンシャルを持っているかもしれないのです。

ニューファンドランド以外では、ラブラドール・レトリバーやフラットコーテッド・レトリバー、ゴールデン・レトリバーといった犬種も、実際に水難救助犬として頑張っているとのこと。

有名な水難救助犬のお話

1930年代に水難救助犬として、なんと生涯を通して27人の人間を救ってくれたワンちゃんがいたそうです。
そのワンちゃんの名前は、「Swansea Jack(スウォンジジャック)」。
1930年生まれのジャックは、飼い主のウィリアム・トーマスと、イギリスはウェールズの都市、スウォンジに暮らしていました。

見た目は現代でいうフラットコーテッド・レトリバー。
体はそんなに大きくないワンちゃんだったようですが、ずば抜けた水泳能力で一躍スター犬になったジャック。

ジャックが初めて人間を救ったのは、1931年6月だったそうです。
始めて救助された人は、12歳の男の子。

ジャックが加えて岸まで運び、命を救ったのだそうです。
このとき話題にはならなかったそうですが、なんとその数週間後にまた人間を助けたのです。
このときは、ドックで溺れていた人をみんなが見ているところで救ったため、ジャックのすごさが人に伝わりヒーロー犬となっていったわけです。
新聞でも取り上げられ、スウォンジの市議会は栄誉の印「シルバーカラー」(銀の首輪)を授与したそうですよ!

それからもジャックは活躍し続け、1936年には「London Star」誌より、「最も勇敢な犬大賞」を受賞。
ロンドン市長からも、シルバーカップを授与されるなど、みんなが知っているセレブ犬になったのです。

しかも、Dog Trustという動物のチャリティ団体からは2つの銅メダルを受賞しているそうですが、この記録はいまだ破られていないのだとか。

そんなヒーロー犬、スウォンジジャックでしたが、悲劇の死が訪れたのは1937年。
まさかの殺鼠剤を誤食してしまい、たった7歳という若さで死んでしまったのです。

27人の命を救ったスウォンジャックはたくさんの人に惜しまれ、市民が資金を募って、プロムナードに墓碑を立て、今も訪れることができるそうです。

なぜ殺鼠剤を気を付けておかなかったのか…悔やまれるところです…。

うちの子も水難救助犬になれる?

水難救助犬、海外ではメジャーですが日本ではなかなか認知度が低めですよね。
それでは、日本ではどんな子たちが水難救助犬になれるのでしょうか?
国内には、「一般社団法人 日本ウォーターワーク協会(JWWA)」という協会が水難救助犬のトレーニングや競技会を開催、水難救助犬の育成や資質の向上のために活動されており、水難救助犬の試験や認定も行っているそうです。

水難救助犬になるためには?

水難救助犬になるためには、まずは水での活動に慣れることが大切です。
真剣に水難救助犬を目指すのであれば、例えば初心者には、JWWA主催の練習会に参加することがお勧めです。

このトレーニングは、毎週木曜日、土曜日に開催されているそうで、初心者は S&Rテストに向けて準備ができるようです。

ちなみに、S&Rテストとはスイム&レスキューテストの事で、30m以上泳げるか、物品を水から持ってこれるか、ハンドラーの所まで泳いで帰って来れるかといった内容のテストだそうで、これが水難救助犬のテストを受ける最低条件になってくるみたいです。

ウォーターワーククラスとは?

ウォーターワーククラスは、現在4種類が開催されています。
「オープンクラス」、「レトリーブクラス」、「エキスパートクラス」、「ハイドロセラピークラス」の4種類で、難易度もそれぞれ違います。

一番簡単なクラスは、オープンクラスです。
S&Rテストに受かっていて、ワンちゃんの年齢は生後10か月以上というのが条件です。
参加する際には、さらに水泳・レトリービング・救難テスト(50mの遊泳・レトリービング・ハンドラーの牽引)があるそうで、ワンちゃんもなかなかの試練かもしれません。

オープンクラスの詳細について

うちの子はオープンクラスくらいいける能力を持っているかも、という飼い主さんのために、難易度の一番低いオープンクラスの詳細についてご紹介しておきますね!

・種目1 シングル・レトリービング(単純な物品持来)
ワンちゃんとハンドラー(飼い主さん)は水場にて、ハンドラーは手に物品を持ち、犬はヒールポジションでハンドラーの横に座わるところから始まります。

競技リーダーの指示で、ハンドラーは10m沖に物品を投げ、競技リーダーの指示で、ハンドラーはワンちゃんにそれを取ってくるように指示します。
ワンちゃんは物品に向って泳ぎ、優しく物品をくわえ、岸にいるハンドラーに持って帰ります。
競技リーダーの指示でハンドラーは物品を渡すコマンドを出し、ワンちゃんから物品を受け取る、という種目です。

例えばワンちゃんが嫌がったり、飼い主さんがワンちゃんを助けてしまったり、飼い主さんが競技中に水の中に入ってしまったり、ワンちゃんが持ってくるものを落としてしまったり、ワンちゃんが咥えて離さないときは失格となるそうですよ。

・種目2 サーチ・レトリービング(探索を伴う物品持来)
ワンちゃんと飼い主さんは水に背を向けて、岸にいます。
ワンちゃんはヒールポジションでハンドラーの横に座り、次の指示を待ちます。
競技リーダー等が水中に浮く物品を岸から15m沖に浮かべ、競技リーダーの指示で、飼い主さんとワンちゃんは水場に向って座りなおします。
そして競技リーダーの指示で、飼い主さんはワンちゃんに取ってくるように指示を出します。

ワンちゃんは誰の助けもかりずに物品の位置を把握し、物品に向って泳ぎ、優しく物品をくわえ、岸にいる飼い主さんに持ってこなくてはなりません。
競技リーダーの指示で飼い主さんはワンちゃんに物品を渡すコマンドをし、ワンちゃんから物品を受け取ります。

失格の条件は、種目1と同じです。
・種目3 ロープ・キャリング(ロープの運搬)
ワンちゃんと飼い主さんは水場で、ワンちゃんはヒールポジションで飼い主さんの横に座ります。
岸の地面には25mのロープが置かれており、水場には15m沖に溺者役の人が配置されます。
競技リーダーから「開始」の合図が出たら、競技開始となり同時にタイムの計測が始まります。
飼い主さんがワンちゃんにロープを手渡すか、ワンちゃんが直接地面からロープをくわえ、1分以内に、水場に出ていかなければなりません。

飼い主さんは岸で待機し、ロープのもう片方の端を手にしている状態となります。
溺者役の人がワンちゃんの運んできたロープをつかんだ所で、競技終了となります。
その後、溺者役の方とワンちゃんは岸まで一緒に泳ぎ、そのロープを使って、溺者役の方を牽引することが出来れば、高い評価を得られるとのこと。

ワンちゃんがタイムオーバーしたときや、飼い主さんが競技中に水場へ入ったら失格だそうです。

・種目4 テーク・ア・ボート・イン・トゥー(ボートの牽引)
ワンちゃんとアシスタントさんの横に座わり、ボートを漕ぐ人と共に飼い主さんはボートに乗って15m沖に出ています。
ボートには3mのロープがくくりつけられています。

競技リーダーから開始の合図が出たら、アシスタントはボートにいる飼い主さんに向かって陸からワンちゃんを送りだします。
ワンちゃんがボートまで泳いできたら、飼い主さんはロープの先端を犬にくわえさせます。
飼い主さんはコマンドを出し、ワンちゃんは1分以内にボートの牽引をスタートしリクに向かって泳がなくてはなりません。

ボートが水底に触れたとき、または陸に上陸できる距離まで来た所で競技終了となるそうです。

・種目5 スイム・ウィズ・ハンドラー(ハンドラーとの遊泳)
わんちゃんはヒールポジションで飼い主さんの横に座っている状態からスタートなのは、全種目共通ですね。

競技リーダーの指示で、ワンちゃんはヒールポジションで飼い主さんと一緒に水場に出て行き、そのまま水の中を進み、泳げる深さに来たところで、水泳を開始します。
その後、さらに10m沖まで泳いで行きます。

10mの水泳の後、ワンちゃんと飼い主さんは岸へ向かってターンし、ワンちゃんは飼い主さんのコマンドによって飼い主さんの先を泳ぎハンドラーを岸まで牽引します。
この時飼い主さんは泳いではいけません。
犬の足が水底についたところで競技終了です。

この際、飼い主さんが物理的にワンちゃんを助けたり、ワンちゃんが牽引しているときに飼い主さんが泳いだら失格だそうです。

・種目6 コンプリヘンシブ(全体の印象) 
種目と種目の間にワンちゃんと飼い主さんがどのような振る舞いをしたか、または犬がどれだけ協力的に、あるいは積極的に集中して競技に参加したかを審査されるそうです。

・種目7 ストレンジャーレスキュー(他人の救助)
この種目は15m沖に溺者役の方がいて、制限時間内に飼い主さんが決めた浮き輪かロープを使用し、溺者役の方を岸まで牽引し救助するという種目です。

・種目8 アンダーウォーターレトリービング(水底からの物品持来)
飼い主さんはアンダーウォーターレトリービング用の水に沈む物品を手にし、飼い主さんとワンちゃんは水に入ります。

ワンちゃんのお腹に水があたる程度の水深まで進んでください。
そこでワンちゃんは立った状態のまま指示を待ちます。
飼い主さんはワンちゃんから1m先に物品を投げ、物品が沈んだら、コマンドでワンちゃんに探させます。

ワンちゃんは水中に沈んだ物品を探し、飼い主さんの所へ持って行くというのを、3分以内に3回行えばOKというものだそうです。

このように、水難救助犬のテストはなかなか難しい種目があるんですね!

終わりに

いかがでしたか?
知らなかった水難救助犬のこと、いろいろ知るきっかけになったらと思います。
頑張っているワンちゃんに、心から拍手を送りたいですね!

*参照
・水難事故の事例と発生場所・原因(2021年)
https://www.teguchi.info/poorly-water/archive/?msclkid=c405aa9ecdd011ec9b5438696cfe5b55#i1
・一般社団法人 日本ウォーターワーク協会 J.W.W.A.

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・スウォンジジャックとは?
https://www.koinuno-heya.com/famous/swanseajack.html?msclkid=5a25c16dcdd411ec98c8a86d466feb19